反社会的思考のススメ

【反社会的】[形容動詞]社会の道徳や規範から大きく外れているさま。 道徳、常識、法律、そういうものを超えた考え方を勧めたい。…勧めたかった。多分2019年11月は真面目に更新できてます。ブログ名詐欺な気はしないでもない。最近は毎日更新してるから仕方ない。 ←何言ってんだこいつ。数年後に見たらむっちゃ恥ずかしいこと言ってんな

朝起きたら大好きだった動画が消えていた。

それはなんでもない昼下がりの出来事だった。

 

大学の夏休みがそろそろ明け、億劫な学園生活を控えるという時期に俺は特にやることもなく暇を持て余していた。

 

いや、正確に言うならば本来俺は次学期でどの授業を受けるかを比較検討して確定させるという重要なタスクがあったはずなのだが、それを面倒だとほっぽりだして、けれども遊ぶのは何か負けたような気がして、しばし虚空を見つめていた…というわけだ。

 

とどのつまり怠けていたのだが、なぜか俺はふと、こんなことを思い立ってしまった。

 

「あ、なんか好きな動画を巡回してえな」………と。

 

さて、人生の夏休みとも呼ばれる大学生活真っ最中の健全な人間が好きな動画を巡回したいだなどと思ってしまったらさあ大変だ。

 

こんなことを思ってしまったが最後、一週間は一切の知的生産的活動ができなくなると断言しても良い。

 

「うわ〜こんな動画あったな〜」「この先の展開が気になって眠れない…(無論先の展開はすでに知っている)」などと心がノスタルジックに浸ってしまい傑作という傑作を見回りたくなって仕方なくなってしまう。

 

かくして人は目先の欲望に駆られてやるべきことを放棄してしまうのだろう。

 

俺は一週間後に俺が困り果てる姿を想像し、自嘲しつつも、俺は「傑作」と題してあるニコニコ動画のマイリストを開いた。

 

そして手始めに、一番好きな動画を開いた———はずだった———

 

www.nicovideo.jp

 

…?

 

…………?

 

消えてる…………?

 

いや、そんなはずは無い。

 

この動画のうp主は著作権表示とか引用の基準とかきっちりする方で、その関係で何回も再うpしていた。

今回もどうせ再うpしただけなんだろう…とそう思いつつその動画シリーズのマイリストを開く。

 

…ページが見つからない?

 

え?え?いやいや、冷静になれ、俺。ユーザーページに行ってそこから探せばいいじゃないか。よし。

 

あれ、ユーザーページへのリンクは?え、この位置にいつもならユーザーページへのリンクが———

 

 

 

まさか。

まさかまさかまさか。

 

 

アカウントが————消えている

 

 

 

 

…………………そんなバカな…

 

俺は息を呑むような顔で画面を見つめていた。

 

だがすぐにそれを真顔に戻した。

 

別に誰に見られているでも無いのに動揺を悟られまいとしていたのだ。

 

後から考えれば、もうこの動画が見られないのではという考えを認めたくなかっただけなのだろう。

 

 

俺はうろたえながらカーソルをニコ動の検索欄に持っていった。

動画名で検索する…何も出てこない。

投稿者名で検索する…何も出てこない。

 

 

いや、まだ何か…あるはずだ…

 

俺は消えた動画の痕跡を探し始めた。

もはやマイリストが機能しない中、動画説明文にある「前→sm29775576 次→sm29918328」を頼りに——まるで宝物が先に結んであるのだと信じて手応えのない紐を手繰り寄せるかのように——進んでいく。

半ば絶望した中で一筋の光明を見つける。

 

ある動画のタグにあった「youtubeに再投稿しました」。

 

っっっっっっっっ!

 

俺は今度こそ息を呑み、youtubeを開いた。

そしてそこの検索欄にタイトルをコピペし——エンターキーを押した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこに並んでいたのは似ても似つかない動画群であった。

もしかしたら検索結果の下の方にあるのかも、とマウスホイールを上下する音だけが鮮明に、虚しい心に響いていた。

 

 

まあ、そのあとは…グーグルの方で検索して見たり、Twitterアカウントを漁ったりしたけど、うん。

ググったらサムネだけちゃんとしてる虚しさが残ったり、

ツイッターのアカウントも案の定消えてたり。うん。ええ。

何も残ってませんでした。はい。

twitter.com

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 

 

表現が好きだった。静止画なのに躍動感に溢れ、ただの舌戦をしているのにまるでバトル漫画でも見ているかのような緊張感だった。

 

伏線が好きだった。冒頭の注意書きや主人公の俺童貞発言、はてや「一松×カラ松要素は存在しない」という"作中人物の"発言など、その全てが荒削りながらも緻密に仕組まれた伏線だった。

 

発想が好きだった。主人公の発言が常に紫色で表示されるからそれが全て紫の発言とされるアイデア、2週目でのあの発言で泣かせにくるストーリー、主人公が犯人かもしれないしそうでないかもしれないという状況、見事としか言えなかった。

 

展開が好きだった。数々の伏線や発想を仕込み、そのほぼ全てを回収するバッドエンドを仕組んだ上で、それらを放棄し、整合性の一切を無視してグッドエンドに導く手腕が見事だった。綺麗なバッドエンドより汚いグッドエンドでいいじゃないかという思想をしっかり描ききっていた。(もはやネタバレとかどうでもいいよね?消えたんだから。)

 

構成が好きだった。三作品のクロスオーバーという難解な要素を全て一つに纏め上げ、しかもその上この作品がそれらの作品のクロスオーバーでなければならなかった必然性までも完璧に用意してあった。

 

作者の愛が好きだった。各作品への愛を忘れず、公式の二次創作ガイドラインを正しく守った上でガイドラインのない作品は著作権に反しないように細心の注意を払ってた。少し引用の要件を満たしてないかなと思っただけで再うpした。しかもその際元動画のコメントを全て移植したのだ。さらに視聴者の疑問一つ一つに素早く答えてくれた。作品や素材元だけでなく視聴者に対しても愛があったのだ。それ以前にこの動画のテーマ自体が(恋愛ではなく家族愛などの意味での)「愛」だった。

 

 

 

 

 

何もかもが好きだった。

率直にいってニコニコ動画でもっとも好きな動画といって差し支えなかった。

それなのに。なんで…

 

 

 

はぁ………