俺はパチンコ店で働いていた事がある。ある日、客寄せのために福引をやっていた時のことだ。その日は一等の45インチのテレビを求めてか店も客でごった返していた。
「おめでとうございま〜す!」
俺の目の前の店員がいきなり大声を叫びながらベルを鳴らす。そのベルの下をみるとガラガラ(福引に使う、回すとだいたい白玉が出てくるやつのこと)から赤玉が出ていた。一等だ。
俺は福引で当たりが出た時に景品を持ってくる役割だった。俺にはあんな大声を出したくなんか無いから願ったり叶ったりだ。福引の現地にテレビを置いておけよとも思うが、この時はそうもいかない事情があった。
というのもこの福引は複数箇所で行われているのだ。そしてその中に一等は合計一つしか入っていない。つまり俺の居た場所以外には赤玉は入っていなかったということになる。テレビは一つしか無いのだから全ての場所にテレビを掲示することはできない。
スタッフルームに入った。が、しかしどうしたことだろうか。置いてあるはずのテレビが見当たらない。
近くのスタッフに話を聞いたところ他の場所でも一等が出たらしい。一等は一つしか無いはずなのだが。それとも数を数えられない未就学児が玉を入れたのだろうか。誰が一等を出したのにテレビを渡せない言い訳を考えると思ってるんだ。
…というのは杞憂で、上とも相談して俺の側で当たった人には後で同じテレビを渡すということになった。まあ俺としては責任を押し付けられなかったから何でもいいのだが、それにしてもずさんな管理体制にもほどがある。
以上は自分が昔見た本の内容(ノンフィクション)をおぼろげな記憶を辿って書いたものだ。さて、みなさんはこの文章を読んでどう思っただろうか。これを見て、店側にも気苦労が多々あるのだな、などと中身が無いことを思っているのだろうか
*1。思っているならよろしい。それが正しいのだ。ましてやこの店側の対応に文句を言う人など誰もいない。
はずだった—————
アナザーエデン確率操作問題も風化して来た頃なので正確さより簡潔さ重視で軽く説明をしておく。
アナザーエデンというソシャゲがあり、当然ガチャも存在する。そしてそのガチャでは★3キャラ、★4キャラ、★5キャラが出る。
ここで注意して欲しいのが「★4」と「★4キャラ」は別物ということだ。キャラクターによって★3or4or5キャラかが決まっている。★3キャラは★3のみ、★4キャラは★3と★4、★5キャラは★4と★5が出現するようになっている。
2018年9月13日、バグにより★5キャラしか出なくなる事態が発生した。これもこれで問題なのだが問題はこの時10連ガチャの★4確定枠に★4キャラが登場していたということだ。9月19日、それを受け運営は以下の内容を自白した。
(1) 「10連ガチャ同じ仲間(同じID)が4体以上含まれる場合に再抽選が行われる」
(2) 「★5クラスの仲間が4体以上含まれる場合に再抽選が行われる」(★5クラス=★5≠★5キャラ)
これまでのソシャゲの確率操作・確率設定ミスは大抵しらを切られて来たため100%の確証がなかった中でこの事件は大炎上に至った。ある者は正義心で怒り、ある者はやはりなとため息をつき、ある者は詫び石欲しさに暴れたのだ。
最終レア度
|
星3
|
星4
|
星5
|
|
-
|
2.0%
(7.6%)
|
2.0%
(3.0%)
|
|
26.1%
|
12.3%
(89.4%)
|
-
|
|
57.6%
|
-
|
-
|
↑上記のURLから引用
10連ガチャのうち
同一の
★3キャラがちょうど4体出る確率は0.089%
*2。
同一の
★4キャラがちょうど4体出る確率は0.0075%
*3。
同一の
★5キャラがちょうど4体出る確率は0.0013%(推定)
*4
再抽選(=内容が破棄される結果)の確率は
★3キャラ:★4キャラ:★5キャラ=91.0%:07.7%:1.3%
10連ガチャ(10連目考慮)の出現確率では
★3キャラ:★4キャラ:★5キャラ=51.8%:43.5%:4.7%
つまり再抽選が行われることによって★3キャラ:★4キャラ:★5キャラ=91.0%:07.7%:1.3%の結果が51.8%:43.5%:4.7%になるのだ(但しその再抽選が行われる確率が10連ガチャ1000回に1回の確率=300万円に一回ではあるが)。
そもそも直感的にレア度の低いのキャラの方が出やすいからレア度が低い結果がなかった事になりやすいというのは分かるだろう。
とりもなおさず(1)はユーザーに有利にしか働かないということだ。これをまさか否定する人がいるとは縛りプレイがお好きの方もいらっしゃるのだなと人類の多様性を私に教えてくれるようだ。
確率操作をしたことが問題だと言うのはおかしな指摘だ。法的に言えば詐欺罪や景品法は不当に優良だと誤認させた時しか成立しない。
ユーザーの信頼を毀損したと言う人もいるがガチャと言うのは確率を操作していなくとも疑われるもので、むしろ表記より優良な内容にした方がユーザーはなぜか「確率通りだな」と信頼してくれるものである。
(「実効命中率」で調べてみると面白い
その意味で運営はユーザーの信頼を確保するのに全力を賭けていたと言えよう。それ以前、ユーザーが運営に要請すべきはユーザーを満足させることでありそれ以外に存在するはずも無い。文句を言う彼は冒頭のパチンコ店に文句を言うつもりなのだろうか。
イラストアドバンテージなどを理由に★5より★3の方が欲しい人もいるのではと言う声が聞こえてきそうだがそれこそ冒頭のパチンコ店の例と同じだ。一等のテレビより二等の米20キロの方が欲しい人だっているかもしれないが客観的にみて一等の方が欲しい。主観的価値の違いを主張するのなら例の福引は詐欺になってしまう。
また、同じキャラを複数体手に入れにくくなるという指摘もあるがこのゲームは同じキャラを数十、または十数体集めることで完全体になる仕様であり、集めたいキャラ以外が4体集まっても再抽選が行われるため誤差もいいところである。
ここまではユーザーに有利なのが一目瞭然であったがここからが本番だ。
(2) 「★5クラスの仲間が4体以上含まれる場合に再抽選が行われる」
これの発生確率を求めてみよう。
なお(1)では★5キャラの出現確率が必要だったため上の表の確率を採用したが、公式が(1)(2)を採用していた間の★5の出現確率は3.26%と明言しているのでそちらを採用しよう。
3.26%で星5が当たるとして10連で星5がちょうど4つ当たる確率は0.019%、5000回強に一回の確率である。なおこのゲームは10連ガチャに約3000円が必要である。つまり1500万円に一回だ
*5。
……この問題に対して返金を求めている人がいるが1500万円課金して平均で★5を4体しか補填してくれないのだがそれでいいのか?
★5が3.3%で当たるなら単発ガチャ121回=36300円で補填できてしまうが…謝罪・時間選好率も込めて5万円補填するにしても30万課金した人でも1000円しか返金されないが…いいのかそれで?
ただこうしてみてみると(1)と(2)の発生比は5:1程度であり(2)は確実に★5が4体無駄になると考えれば(2)の影響の方が強いのは事実だ。だからこのガチャは表記上の確率より悪い結果が出てしまうと言うのは事実———でもなんでも無い。
実はこのゲーム、ガチャの確率を小数点以下第2位までしか公開していないのだ(「1.50%」のように)。
さて、(2)では10連ガチャ5000回につき4体の★5が無に還ってしまわれるのだが 4/50000=1/12500=0.00008=0.008%
この間に(1)が5回発動するので5回×4体のキャラが再抽選され3.3%で★5になる。それにより約0.6体が星5になるので
0.6/50000=0.000012=0.0012%
差し引き0.0068%
ギリギリセーフ。危ない。前言撤回する羽目になるところであった。
この場合、表記上1.50%が内部では1.5040%→1.4972%となっていれば四捨五入で問題ない。
ゲーム内で表記している確率と実際に取得された仲間の実績値を比較した結果、以下の通りでした。
・★5:表記3.26%のところ、実績3.26%(差分なし)
・★4:表記17.97%のところ、実績17.96%(-0.01%差)
・★3:表記78.77%のところ、実績78.78%(+0.01%差)
※小数点第三位以下 切り捨て
※お客様による夢見の実施全履歴から調査
※各クラスの表記排出確率は過去販売された各夢見全てにおける確率を総計し算出
一見ユーザーに不利になっているが「小数点第三位以下 切り捨て」と言う処理によるものだろう。切り捨て処理はまず間違いなく合計値が100%にならず99.99%や99.98%になる。
これの慣例的な処理として「その他」の項目に入れるか、あるいは相対的誤差を減らすため
*6「値が大きいものに算入する」のが基本である。その為★3の実績値が大きく見えると言うのは不自然ではない。
……とやや煙に巻くことを言ったが(騙された人は要注意)「★3の値が大きくなる」のは実績だけでなく表記もである。
故に「★3の値が小さくなる」のも不自然ではない。結局このデータから分かるのは(1)(2)の補正後は★4の確率が減ってはいる、と言う事実のみである。
★5の増減は不明だし★3が増えていない可能性すらある。しかもその★4の減少でさえ0.01%である。1/10000の誤差なんて1億回ガチャを回したって(多分)起こり得る。何回ガチャが回されたのか分からないためこの辺りは検証不可能ではあるのだが…。
いや、私が主張したいのはそう言うことではないのだ。全くもって違う。
ここまでで私はちゃんと計算が可能なのに計算せず非難するのことの愚かさを伝えたかったのであって数字遊びをしたいのではない。
私はギリギリアウトだったとしても問題ないと思っているのだ。運営が確率詐欺をしていたとしても問題ないと思っている。
よくよく考えてみよう。この確率操作で★5の出現率が0.0068%下がった。と言うことは運営の売り上げは0.0068%ほど上がったかもしれない。………。
あなたが運営なら0.0068%の為に確率操作を行うだろうか。
やるならせめてもっと大胆に10や20%程確率を操作するのではないだろうか。
もしこれが運営の利益のために行われていたならあまりにみみっちい話で、毎日コンビニのチロルチョコを盗むがごとき意味不明な所業だ。
じゃあ運営の為ではないとしたら。この確率操作プログラムが他の誰かの為に作られたとしたら。
だとしたらこれはユーザーの為の確率操作ではないのか。そう考えるとある可能性が見えてくる。
★5を4体以上同時に出ないようにすると言うのは大当たりを無くすに等しい行為だ。300万しか手に入らない宝くじ。大当たりの存在しないパチンコ。テレビの貰えない福引だ。
こんな話を聞いたことはないだろうか。宝くじで1億円以上当選者の7割が破産している、と。
流石に法的な意味で7割はないだろうが、数年で全てスってしまうことがほとんどらしい。カジノでも一度は大当たりして大金を儲けたくせにそれをその日中に使い切ってしまうのは日常茶飯事だ。
『表記より優良な内容にした方がユーザーはなぜか「確率通りだな」と信頼してくれるものである』と先ほど書いたが人間の主観というのはそう言うもので、一度でも幸運を経験するとそれに慣れ、溺れてしまうものなのだ。
一度でも★5が4体以上出ることを体感してしまうとその後ガチャを引くときに毎回のようにそれが脳裏を過ぎるようになる。「あの時あんなことがあったんだからもう10連でなんとかなるかもしれない!」実際なんとかなる可能性はちゃんとある。ただそれは、1500万円に一回の運だが。
つまり(2)の意図はユーザーを沼にハマらせないためである。成功体験を与えないという廃課金者抑制システムとして最高な一品だ。惜しむらくはユーザーに対して秘密にしなければ効果が半減してしまう上に不満噴出間違いなしであるところだが。
この運営は本当にユーザーのことを自分の利益を捨ててまで(少なくとも結果的には)考えているのだ。そうでなければこんな運営が雀の涙ほどの得をするどころが損しかしないプログラムを混入させるだろうか。
上述のようにきちんと確率を計算し管理していればギリギリ詐欺罪・景品法違反に該当しないという都合の良さも相まって、バレた時のリスクリターンも計算尽くでユーザーの為に違法スレスレの行為を仕立てたのではないかと私には思えてならない。
そして、もしかしたら、いやこれは十二分にあり得る話で、この確率操作事件のせいで日本のソシャゲから同様の素晴らしいプログラムを抜き取る為に緊急メンテなぞしているのだとしたら私は非常に悲しい。
大昔、テレビでまともなドラマが見れるようになった頃では刑事ドラマのテンプレートは真面目な正義の刑事が正しく職務を全うして犯人を追い詰めるというものだ。
しかしそんな理想的勧善懲悪は現実に即さなかったのだろうか。
一昔前からは乱暴な刑事が違法すれすれの手段を選ばない(場合によっては完全に違法な)捜査で犯人を捕まえる刑事ドラマが主流になったものだ。
確率操作を指示したプロデューサーは現在退職したとのことだが彼は違法すれすれでユーザーを楽しませるプロのプロデューサーだったのではないか、としか私には思えない。
「アナザーエデンは優良で面白いソシャゲだったのになぜ確率操作なんかしたんだ」だとか「なぜ確率操作をしておきながら自白したんだ最後の良心か?」と言うような意見が見られるがなんてことはない。
最初っから最期までずっと運営は、ユーザーのことを考えているだけの話だったのだ。
ただ、ユーザーが運営のことを考えていなかっただけなのだ。