反社会的思考のススメ

【反社会的】[形容動詞]社会の道徳や規範から大きく外れているさま。 道徳、常識、法律、そういうものを超えた考え方を勧めたい。…勧めたかった。多分2019年7月は真面目に更新できそうです。

歯医者で最も怖いのは『歯を削られても痛くないこと』だ。

歯医者に関してで最も怖いことはなんだと思う?

歯を削られて叫びたくなるほど痛む時?確かに怖い。

歯の治療をした後味覚がおかしくなって大会で2位を記録したようなラーメンより松屋のネギ玉牛丼の方が美味く感じるようになってしまった時?それも怖い。

だが、だが最も怖いのは、

「いくら歯を削られようが何をされようが違和感さえなく、何も感じず、笑えるほど、全くもって痛くないこと」

である。

 

 

 

 

僕は昔から虫歯が多かった。幸いにも神経を抜く必要があるほどの虫歯は無かったが、神経ぎりぎりまで侵食されていたことも少なく無く、治療した歯は10本以上にのぼる。

なので、右下の歯が痛くなった時も「またか。」という程度の反応だった。

だが、この時の痛みはこれまでの虫歯と明白に違った。

 

この痛みは何故か、水を口に含むと収まるのだ。

普通、患部に冷水が触れると痛むはずなのに今回は逆。痛い時でも液体が触れていれば余裕で耐えられる程度になってしまう。

 

そして、時折その歯が痛んで仕方なくなり、特に寝る前に痛み、寝れないほどなのに。

それにも関わらずいくら歯磨きしても痛まない

痛むのは食事の時と、不定期に突然痛み出すのみである。

 

右下の歯は以前虫歯になり、神経付近まで虫歯に侵食された事がある歯だった。

また何か虫歯菌が悪さをしているのだろうか。

そう思いつつ僕は歯医者に行った。

 

 

 

医者に症状を伝えると、まず原因を探ろうという話になった。

風を吹きかけられるも痛くない。

歯を押されても痛くない。痛い箇所もあるが右下の歯では無かった。

 

そんなこんなでレントゲンを撮ることになった。

僕はマウスピース…と言っていいのか、歯の位置を固定するものを咥えさせられ、患部の写真を撮った。

その写真を見て医者は言うのだ。

 

「あ〜、神経が死んでるかもしれませんね」

 

衝撃的な一言である。

虫歯に関して調べた事がある方ならご存知だと思うが、歯の神経が死ぬというのは歯そのものが死ぬことと同義だ。

歯には栄養が行き渡らなくなり、自然治癒力が消失し、そうなれば虫歯は進行するしかなくなり、抜歯まで秒読み。さらに菌の繁殖材料にされ、「腐ったミカン」と化し周囲の歯にも悪影響を及ぼす。

 

これまではなんとか神経を取り除かずにいられたというのに、ここに来てこの仕打ちだ。

 

医者は詳しく調べるために歯を削り出す。

 

そう。痛くない。歯を削られても全く痛くない。

 

思わず笑ってしまうほど——これは比喩ではなく本当に失笑してしまったほどに——全く痛くないのだ。

 

神経付近まで削った歯を更に削っているというのに。

 

 

これまで散々虫歯の治療の痛みに耐えて来たというのに、その努力がもはやどうでもいいことに思えてしまう。

直接医者に神経が死んでいると断定された方がどれだけ楽だったか。

もはや調べるまでもなく——神経が死んでいると分からされてしまう。

 

 

医者は持ち手の先に1cmほどの針金(?)がついたものを取り出し、口内に入れた。

それをコークスクリューのように僕の「どこか」にねじ込み、

そして、

取り出した———

 

針金の先についていた物体は、さしずめ腐った人参だった。赤黒く、先のすぼまった形をしていて、そして取り出してみれば分かる、死んだ野生動物を前にしているかのような血生臭さ。どう考えてもおよそ人間の内部に存在してはいけない物体。

それを見て呆然としていると、

「ほら、これが神経。」

案の定。これは、これが神経らしかった。

「全然痛く無かったでしょ。麻酔無しでも痛くないのは神経が死んでるから。」

 

麻酔無し…?

そう言われて愕然とする。

そうだ。確かに自分は神経ぎりぎりまで削った歯の治療をしているはずで。

でも麻酔をされた記憶は全く無くて——

 

「じゃ、次やるからまた口開けて。」

 

心の整理をする時間なんかあったもんじゃない。

次、とは何かよく分からないままに言われるがままに口を開ける。

 

医者はまたあの針金を入れてきて何処かに差し込む。

2本目の神経か…?

いや、治療している歯は一本だけのはず。

治療歯の周りの歯の神経も抜くのか?

いや、違う。周りの歯は削られていない。神経なんか抜けるはずはない。

…ああ、なるほど。一本の歯を複数の神経が支えているのか。

 

 

「ちょっと痛くなるかもしれんけどごめんね」

 

プチッ

 

2本目の神経が抜かれる。

1本目の神経が抜かれた時は何も感じなかったのに、2本目の時は、何か、こう、「痛み」とは言えないまでも違和感を感じた。

その違和感を抱えたまま三度針金が入る。

 

ぶちっ

 

「痛ってえ!」

 

思わず叫んでいた。

 

「ああ、痛かった?」

「…痛い。」

「まだちょっとだけ神経が生きてたんやな。」

 

 

…その後の処置はあまり覚えていない。

消毒だったり抜いた神経の部分を綿で軽く蓋をしたりする程度で特筆するような処置はなかった。

その時医者に聞いた話によると、神経は本来綺麗な色をしているが、腐ると赤黒く変色し、異臭を発するそうだ。また、推測の通り一本の歯を3本の神経で支えているらしい。

まあ、そんな話はどうでもよくて。

それよりも恐怖を煽ったのは、このまま放置していたら全ての神経が腐って全く痛みを感じなくなっていただろうという話だ。そうすると神経が腐っているのを放置することになり、そのままだとアゴも虫歯菌に侵食されてしまうという話だ。

 

まあ、だから僕が言いたいことを言ってしまうなら、「歯医者は痛いから行きたくない」なんてのはよく聞くけども、それはあまりに甘えた言動であり、「歯医者が痛くなくなる前に早く行け」と言いたいだけなのだ。