前回の記事↑では「負けたら損をするタイプのじゃんけんにおいて裏切るより協力した方が有利になる」ということを示しました。
今回の記事では勝ったら得をするじゃんけんでの協力の可能性について考察します。
まず大前提として、じゃんけんの協力には2通りしかありません。同じ手を出すか、2種類の違う手を出すかの2つです。
まあそりゃそうでしょう。3種類の手を出したら絶対あいこになります。する意味がありません。
(一応、あいこを続けさせて他の人を疲弊させたりすることはできますが…そもそも3人が協力するだけでじゃんけんを永遠に終わらせなくできる時点でじゃんけんというゲームは欠陥品のような気もしますし…)
で、同じ手を出した時の効果については前回考察しました。同じ手を出すと負けにくく、かつ勝ちにくくなります。
ということは違う手を出せば勝ちやすくかつ負けにくくなるのでは、と思うのは自然ですね。
計算してみましょう。
k人でじゃんけんをすることにしてA君とB君の2人が協力することにします。 (もちろんkは3以上)
A君を勝たせようととすると、B君はチョキを出し続け、A君はB君が負けるまでグーを出し続けることになります。
そうするとB君は必ず負け、A君は初めに脱落することがあり得なくなります。
このときあいこにならないのは残りのk-2 人が全員グーかチョキを出したときだけです。そしてその時、チョキを出した人とB君が負け抜けます。
つまりA君が勝つ確率は——
となります。
分かりにくいので表にするとこうなります。
k | 協力時A君勝率 | 通常時2人合計勝率 | 変化した勝率の倍率 |
---|---|---|---|
3 | 0.750000 | 0.666667 | 1.125000倍 |
4 | 0.583333 | 0.500000 | 1.166667倍 |
5 | 0.468750 | 0.400000 | 1.171875倍 |
6 | 0.387500 | 0.333333 | 1.162500倍 |
7 | 0.328125 | 0.285714 | 1.148438倍 |
8 | 0.283482 | 0.250000 | 1.133929倍 |
9 | 0.249023 | 0.222222 | 1.120605倍 |
10 | 0.221788 | 0.200000 | 1.108941倍 |
11 | 0.199805 | 0.181818 | 1.098926倍 |
12 | 0.181729 | 0.166667 | 1.090376倍 |
13 | 0.166626 | 0.153846 | 1.083069倍 |
14 | 0.153827 | 0.142857 | 1.076792倍 |
15 | 0.142848 | 0.133333 | 1.071363倍 |
16 | 0.133329 | 0.125000 | 1.066634倍 |
17 | 0.124998 | 0.117647 | 1.062484倍 |
18 | 0.117646 | 0.111111 | 1.058815倍 |
19 | 0.111111 | 0.105263 | 1.055552倍 |
20 | 0.105263 | 0.100000 | 1.052630倍 |
※この表は2人とも勝つ気があっても敢えて相方に勝利を譲り合った方が平均勝率が高くなることを意味しています。
予想通り、協力した方が勝率が高くなっていますね。 でも…思ったより控えめですね…(※負けたら損するじゃんけんは2人協力で敗率が半分になった)
当たり前のことですが、「負けない」という目標は1人以外全員が達成できる目標ですが「勝つ」という目標は一人しか達成できません。ですので「勝つ」じゃんけんはどう足掻いても「裏切った方が有利」です。前回の記事を踏まえるとこれは「負けない」と「勝つ」の一線を画す点です。
但し、勝つじゃんけんは基本的に立候補制です。そのため、勝った時の報酬に興味のない人B君を連れてきて踏み台として協力させることができます。
(さらにこの時、B君は必ず負けるのでB君が間違って報酬を得ることがありません。)
B君は報酬が欲しくないので裏切る意味は皆無。
またB君が協力するメリットとしては、いつかA君がB君のじゃんけんに協力することを約束する、で十分でしょう。
B君は絶対損しないのですから口約束で十分です。こうしてA君とB君の癒着関係が形成されるのですね…。
これを認めると勝率2倍や3倍も余裕で達成できます。
上の表は2人とも勝つ気があっても敢えて相方に勝利を譲り合った方が平均勝率が高くなることを意味しています。
1人しか勝つ気がないなら勝率比は以下のようになります。
(k=3とは、協力者がいる時に3人ということです。ですので通常時は k-1 人での協力者なしでの勝率になるので 確率 1/(k-1)です。 )
k | 協力時A君勝率 | 通常時(k-1人)での1人勝率 | 変化した勝率の倍率 |
---|---|---|---|
3 | 0.750000 | 0.500000 | 1.500000倍 |
4 | 0.583333 | 0.333333 | 1.750000倍 |
5 | 0.468750 | 0.250000 | 1.875000倍 |
6 | 0.387500 | 0.200000 | 1.937500倍 |
7 | 0.328125 | 0.166667 | 1.968750倍 |
8 | 0.283482 | 0.142857 | 1.984375倍 |
9 | 0.249023 | 0.125000 | 1.992188倍 |
10 | 0.221788 | 0.111111 | 1.996094倍 |
11 | 0.199805 | 0.100000 | 1.998047倍 |
12 | 0.181729 | 0.090909 | 1.999023倍 |
13 | 0.166626 | 0.083333 | 1.999512倍 |
14 | 0.153827 | 0.076923 | 1.999756倍 |
15 | 0.142848 | 0.071429 | 1.999878倍 |
16 | 0.133329 | 0.066667 | 1.999939倍 |
17 | 0.124998 | 0.062500 | 1.999969倍 |
18 | 0.117646 | 0.058824 | 1.999985倍 |
19 | 0.111111 | 0.055556 | 1.999992倍 |
20 | 0.105263 | 0.052632 | 1.999996倍 |
えーと、これ、じゃんけんでしたよね…?勝率2倍…? あれ、「負けないじゃんけん」より酷いのでは…?
…取り敢えず詳しい考察はさて置いて、じゃんけんで2人で協力して「勝つ」確率を高める方法が分かりました。
「勝たせる人」を1人決めて、相方は負ける手を出し続ければいいのです。
そして「勝たせる人」をシフト制にすれば2人とも勝率が上がります。
特に利害関係の外にいる人が使える状況なら勝率を容易に高められることも判明しました。
正直なところ、ここまでの結論を出すのにさえかなりの時間を数学とプログラミングに費やしましたので、今回は方法の紹介に留めたいとおもいます。
具体的に何人協力させれば何倍になるか、などの考察は次回に回したいと思います。正直嫌な予感しかしません。でもじゃんけんを億単位でシミュレーションできるプログラムが完成したので次回の記事は早めに上げられると思います。