反社会的思考のススメ

【反社会的】[形容動詞]社会の道徳や規範から大きく外れているさま。 道徳、常識、法律、そういうものを超えた考え方を勧めたい。…勧めたかった。多分2019年11月は真面目に更新できてます。ブログ名詐欺な気はしないでもない。最近は毎日更新してるから仕方ない。 ←何言ってんだこいつ。数年後に見たらむっちゃ恥ずかしいこと言ってんな

2つの封筒問題(パラドックス)を解説する【情報の非対称性という魔物】

2つの封筒問題とは次のような問題だ。

ここに2つの封筒がある。一方には他方の2倍の金が小切手で入っている。(わざわざ小切手と断ったのは封筒の中に1億円などが入る可能性を残すためだ。)

あなたは適当に1つを選び、中身を見ると1万円が入っていた。あなたの友人はもう1つを手に取り中身を見た。

あなたはこのように考えた。友人の封筒には2万円か5千円が入っているはずだ。どちらも2分の1の確率で起こるはず*1。だから向こうの封筒の期待値は12500円だ。

あなたは言う。「封筒を交換しないか?」

友人は言う。「僕もちょうどそうしようと思ってたんだ。」

※無粋だが解説しておくと、友人も「あなた」と同じ思考で交換しようと思っている。これは友人が5千円持っていようが2万円持っていようが変わらない。

これの問題点(パラドックス)はいくつかある。

・あなたも友人も合理的に行動したように見えるのに両方が交換を望むのはおかしくないか?

・もし交換した方が期待値が増えるなら、中身を見ずに交換したら期待値が増えることになる。じゃあ無限に交換し続ければ無限に金が増えるのか。

・ランダムに選んだ封筒の中身が1万円で、選ばれなかった方の期待値が12500円なのはおかしい。ランダムに選んだのだから期待値は同じはずだ。

 

これらの解法を示そう。

・あなたも友人も合理的に行動したように見えるのに両方が交換を望むのはおかしくないか?

これは情報の非対称性で説明できる。レモン市場の逆で説明しよう。

A氏は車を持っていてこれを40万で売り払いたい。しかしA氏は車に詳しいのでこの車が30万ほどの価値しか無いことを知っている。ところがB氏がこれを買うと言ってきたのだ。B氏は車に詳しくなく、その車は10万円以上90万円以下であることしか分からない。だが期待値を取れば50万だ。40万払って50万の車が手に入るとはお得だ。そう思ってB氏はその車を買ったのだ。
結局実際にはA氏が10万得してB氏が10万損したわけだが、主観的には両者は10万ずつ得したことになる。

持っている情報によって物の価値は異なる。

1万円の封筒を持っている人は相手の封筒を12500円と見積もるし、2万円の封筒を持っている人は相手の封筒を25000円と見積もるのだ。 

だから各々の主観的には両者とも交換を望むのはおかしくない。

ボクシングでインファイトが得意な人同士が戦ったら大体両者望んでインファイト戦になるようなものだ。本来なら一方が「俺の方がインファイトでの優位が少ないからアウトボクシングにしよう」となるはずである。しかし両者が両者「俺のインファイトの方が強い!」と主観的に思っているから両者の望む展開が同じというあり得ない事態が起こる。両者の望む展開が同じということは、両者共「俺の方が有利だ!」と思っているわけだ。あり得ない。両者共「俺の方が勝率50%以上ある!」と思ってるんだぞ。合計したら100%超えるじゃねえか。
なお私はボクシングは見たこともないがあくまでも例え話だ。

ちなみに自分の封筒の中身を知ったら交換すべきだが、相手の封筒の中身だけがわかる場合は交換すべきでない。

 

・もし交換した方が期待値が増えるなら、中身を見ずに交換したら期待値が増えることになる。じゃあ無限に交換し続ければ無限に金が増えるのか。

・ランダムに選んだ封筒の中身が1万円で、選ばれなかった方の期待値が12500円なのはおかしい。ランダムに選んだのだから期待値は同じはずだ。

この2つは纏めて解決しよう。ランダムに選んだ方の中身がA円なら選ばれない方の期待値は1.25×A円になる。矛盾している。一方を選ぼうとして「やっぱ止めた」でもう片方を選んだら期待値が増えると言ってるようなものだ。更に言えば2回「やっぱ止めた」をすれば元の封筒に戻ってくるがそれで期待値が増えるだろうか。増えるはずがない。1.25×1.25×A円になるはずがない。

…一見矛盾しているが実はこれは矛盾していない。それを知るために「中身を見ていないランダムな封筒の金額」の期待値を求めよう。もし仮にその封筒の中身が1円から10万円の間で選ばれるなら当然期待値は5万円だ。今回の場合、封筒の中身は1円から無限円の間で選ばれる。もうお判りだろう。期待値は∞円だ。

そして言うまでもなく無限に何を掛けようが無限なので選ばれなかった方の期待値は1.25×A=1.25×∞=∞となる。

中身を見ずに交換したら期待値が増えることになる。じゃあ無限に交換し続ければ無限に金が増えるのか。」と言う問いにはこう答えられる。無限に交換し続ければ無限に金は増えるけど元から無限だから意味がない。

ちなみに中身を見て交換した場合、2回目以降の交換は両方の封筒の中身が分かってるから無意味だ。
初回は交換した方が良いのは前述の通り。

こうなれば「ランダムに選んだ封筒の中身が1万円で、選ばれなかった方の期待値が12500円なのはおかしい。ランダムに選んだのだから期待値は同じはずだ。」と言うパラドックスにも回答できるだろう。中身を見る前は同じなのだ。封筒の中身を見るとそうでは無くなる。なぜなら中身を見ることで無限ではなく有限の、しっかり値の定まった金額になるからだ。そしてその後は意味不明な無限の世界を考える必要はないのだ。一方の金額を見た瞬間他方の期待値はその1.25倍になる。自分の封筒の中身が何万円か分かったら交換すべきだし、相手の封筒の中身が何万円か分かったら交換すべきでない。自分の封筒の中身を見ずに相手と交換した後にその封筒の中身を見たならばその後もう一回交換すべきなのだ。馬鹿らしいが無限と有限の世界の違い、と考えるしかない。

 

とどのつまり「無限」という非現実的なものを持ち込んだからパラドックスになったのであって、金額に上限を定めたのならば途端に話は変わってくる。上限が100万なら60万円入った封筒は絶対に交換すべきでないのは当然だ。「交換すべきでない」という選択肢が出てくるわけだ。中身を見ずに交換するのは悪手になる。といっても有限に限ればパラドックスもへったくれもないのだが。

 

なお二つの封筒問題; 非ベイジアン的方法を見ると大学数学(どころか大学院レベル)での解決法が書いてある。正直何書いてるか分からん。

*1:本当はここが必ず間違いになるのだが、それを示すのは大学院レベルの数学が必要らしい(?)のでこの文は正しいことにする