世の中の意見は理想論と現実論が存在する。
ここで自分の言う理想論とは「現状を無視した意見」のことだ。
これは「実現可能性の無視」と「必要コストの無視」と「変更コストの無視」の3通りに分けられる。
「実現可能性の無視」
例えば毎日15時間勉強すれば東大に合格できるとして、実際に自宅で勉強できる人はほんの一握りだろう。だからわざわざ自習室に赴いたり塾で勉強するのである。
自宅で勉強するのが最も効率が良いからと言って塾にも行かず毎日毎日家で遊んでばかりいるのでは意味が無い。無論、本当に勉強できてしまうのなら問題ないが「自分が家にいると遊んでしまう体質であること」を知っていながら家にいるのでは学習能力が足りない(勉強能力ではなく)。
このように過去・現在の経験・歴史・制度からはありえない最善手を取ろうとし続けるのは「実現可能性の無視」であり理想論の一つである。一般に理想論と言われるのはこれだ。
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「必要コストの無視」
読者のメールアドレスには恐らく数々の迷惑メールが存在するだろう。
試しに俺のメールアドレスを見てみると「小松菜奈とフェラ」だの「【先月分のご利用情報について】」だの「遺産を差し上げます」だの訳の分からない迷惑メールが立ち並んでいるが、もしかしたらこの中にも本当にフェラ出来たり重要な情報が書かれていたり大金持ちになれるかもしれない。
なので迷惑メールが本当に嘘なのかを検証すべきである。
…という意見は言ってることそのものは正論だがそれを検証するのは手間暇がかかりすぎる。
これが「必要コストの無視」である。これも一般に理想論といわれる内の一つだろう。
「変更コストの無視」
それらに対し、「変更コストの無視」は何かを変えることは可能だがそれにかかるコストを無視することだ。
例えば軽減税率を採用すべきか否かを考える時、現実的に考えるならば、採用すべき側論者は現状から軽減税率制に変更するコストも考慮すべきである。
(変更コストの例としては 制度の周知、軽減税率の対象を決めるための議論、企業側の会計システムの改修 に要する時間・経済的コストです。なお会計システムの改修コストは変更コストに該当しますが軽減税率に対応した複雑な会計システムそのものの利用に係るコストは該当しない。)
これを考慮しない意見も現状を無視しているので理想論の一種である(と自分は定義している)。
理想論のメリットは単純に考えられることで、現実論のメリットは現実に対応できることである。デメリットはその逆である。
では意見を考える時どうすべきかというとまず理想論から入るべきである。その理由は3つある。
①目標点を明確にできる
理想論というのは目的地を表すものであり、現実論はその妥協点を探るものと言えるが目的地がわからなければ妥協点も探ることが出来ない。
②思考時間の省略ができる
現実論は理想論と比べ、変更コスト分改革側が不利になり現状維持側が有利になる。それ故に——先ほどの軽減税率の議論もそうだが——理想論で現状維持すべきという結論になると現実論でも当然現状維持すべきということになる。
そして理想論は単純なので短時間で結論が出しやすい。つまり理想論から入ることで思考時間を省略できる可能性がある。
なお理想論は単純ゆえに反論も単純になる。理想論は意見を出しやすい分反論もされやすいのだ。即ち議論が進みやすいとも言える。
③汎用がし易い
単純に考えられる(=前提条件が少ない)が故に汎用性が高い。状況が大きく変わっても適用が可能だ。と言っても理想論をそのまま使うほどバカな事はないが。
物事を考える時にはこう言った訳から理想論を考え、そこに現実の状況を付加する形で現実論は考えるべきだ。*2
つまり理想論は必要な意見なのであって「実現不可能」「必要なコストを考えていない」という理由で意見を否定してはいけないという事である。正確に言うならば「意見」というより「議論」を否定してはいけないと言うべきか。実現不可能だからと言ってその議論が無駄にはならないし、必要なコストを考えていなくともそこに意味はあるのだから「現実的でない」というだけでしかない。